先日、朝日新聞でオーバードーズ(過剰服用)に関する記事を目にしました。
内容は、10代の女性が市販の咳止め薬を1回で20錠、半年間にわたって服用し続けたというものでした。さらに、40錠服用した状態で歌舞伎町で倒れたという話も含まれており、薬剤師として思うことがありブログ記事にすることにしました。
なぜこのような行動をとってしまったのか、その背景には複雑な事情があると思われます。今回は、市販薬、特に乱用されることが多い咳止め薬のオーバードーズが体にどのような影響を及ぼすのかを詳しく解説し、適切な理解を深めていただきたいと思います。
市販薬のオーバードーズが多い薬とは?
オーバードーズされやすい市販薬として代表的なのが、咳止め薬や風邪薬です。
なぜこれらの薬が選ばれるのか?その理由は、咳止め薬の中に麻薬と同様の作用を持つ成分が含まれているからです。
咳止め薬に含まれる成分:リン酸コデイン
リン酸コデインは、モルヒネと化学的に類似した成分で、市販の風邪薬や咳止め薬にも含まれています。
• 作用
• 鎮咳作用(咳を抑える)
• 鎮痛作用(痛みを和らげる)
• 呼吸抑制作用(呼吸を弱める)
• 副作用
• 便秘
• 吐き気
• 強い眠気
• 呼吸困難
過剰服用した場合の影響
リン酸コデインを過剰に摂取した場合、これらの作用が過剰に発揮され、最悪の場合、呼吸停止や死に至ることがあります。ただし、内服薬はすべてが体内に吸収されるわけではありません。
薬の過剰服用と吸収率の関係
例えば、注射薬であれば効果が直接体内に伝わりますが、内服薬は胃や腸で吸収されるため、摂取した量がそのまま体内で効くわけではありません。
吸収率を考慮しつつ、具体的な致死量について見ていきましょう。
リン酸コデインの致死量(LD50)とは?
致死量の指標として用いられるのがLD50(半数致死量)です。これは動物実験で算出された数値で、人間の場合、個人差がありますが参考値となります。
• リン酸コデインのLD50:427 mg/kg(マウス)
• 体重50kgの人の場合、約21,350mg(21.35g)が致死量に相当します。
では、市販の咳止め薬「エスエスブロン錠」を例に考えてみましょう。
実例:エスエスブロン錠での致死量計算
エスエスブロン錠には、12錠中30mgのジヒドロコデインリン酸塩(リン酸コデインに類似した成分)が含まれています。
• 計算例
• 体重50kgの人の致死量:21,350mg
• 100%吸収されると仮定した場合、必要なジヒドロコデイン量:21,350mg ÷ 30mg ≈ 711錠
実際の吸収率が仮に50%とすると、致死量に達するには約1,400錠を飲む必要があります。
結論
現実的に1,400錠もの錠剤を一度に飲むことは不可能です。そのため、咳止め薬を過剰服用しても「死ぬことは難しい」のが現実です。
死なない場合の健康被害
しかし、過剰服用が命を奪わない場合でも深刻な健康被害を引き起こします。
• 主な症状
• 呼吸困難
• 肝機能障害(肝臓への負担)
• 重度の便秘
• 幻覚や精神的混乱
• 中毒症状による意識障害
これらの症状により、後遺症が残ったり日常生活が著しく困難になる場合があります。
まとめ
薬のオーバードーズによって命を絶とうとしても、簡単に死ぬことはできないどころか、命に関わらない後遺症や苦痛を引き起こす可能性が非常に高いことがお分かりいただけたと思います。
さらに、薬の過剰服用で医療機関を受診した場合、医療保険が適用されず全額自費となります。経済的負担も大きく、精神的にも苦しい思いをすることになります。
薬剤師としてお伝えしたいのは、薬で命を絶つことは解決策にはならないということです。問題を抱えたときは、一人で悩まず信頼できる人や専門機関に相談してください。命は何より大切です。
Comments